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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

彼女は、態と肴町で自動車を降りて、団子坂通りを指定の空家へと歩いて行った。

横町を曲ると、陰気な住宅街で、頭より高い生垣が、両側にまるで八幡の藪不知みたいに、うねうねと続いていた。

闇夜は距離を二倍に見せる。さ程でもない道のりを、妙子は、この生垣の中で、迷児になってしまうのではないかと思った程だ。

だが、やっとそれらしい石門が見つかった。星明りにぼんやり見える西洋館の屋根は、真黒な大入道の様であった。余りの不気味さに、

「いっそ帰ろうかしら」

と引返しかけたが、といって、犯人の隙見をあきらめる気にはなれぬ。単なる好奇心なら、引返しもしたであろう。だが、彼女には、彼女の外は誰も知らぬ、好奇心以上の、せっぱつまった必要があったのだ。

足音を忍ばせて、門を入り、雑草の生いしげった地面を、玄関へとたどりついた。

押して見ると、ドアは音もなく開いた。真直な廊下の突当りに、幽かな光が見える。多分あれが犯人のいる部屋なのであろう。

心臓が異様に波打ちはじめた。

アア、もう少しで、ほんの数秒の後には、真犯人を見ることが出来るのだ。と思うと、妙子は苦しさに息がつまり相だった。