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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

肉仮面

ナアンだ。救われたというのは嘘で、ここは賊の巣窟だったのか。こいつは面白くなって来たぞ。明智は真相を知ると、失望するどころか、却って、ひどく争闘慾をそそられたのである。

肉仮面

明智は落ちついて食事を済ました。毒殺の心配はない。殺そうと思えば、眠っている間にいつでも殺せたのだから。食事をしながら見ると、部屋の一方に大きな本棚があって、ギッシリ金文字が詰まっている。その隣りの壁には西洋道化師のお面なども懸けてある。一方の隅の花瓶には、無雑作に投入れた野菊の花束。読物はあるし、部屋は立派だし、食事は贅沢だし、何一つ不足はない。監禁者というよりも、大切な御客様の待遇だ。

食事が済むと、どこかで見張ってでもいた様に、ドアが開いて、さっきの娘が現われ、盆を下げる序に、葉巻の箱を置いて行く。至れり尽せりだ。

「やっと、僕の境遇が分りましたよ。それにしても、君は実によく気がつきますね。どっかに見張りの穴でもあるのですか」

立去ろうとする娘の手首を掴んで、明智は笑いながら云った。

「そんなものありませんわ」

娘はソッと手を振りほどいて、にこやかに答えた。

「僕手が洗いたいのだが」