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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
丁度彼の目の行く辺の壁に、例の装飾用のお面がある。真白な顔の頬と額に滑稽な赤丸を塗りつけ、細くした目の線と直角に、頓狂な縦の黒い隈を描き、紅白だんだらのとんがり帽を冠った、西洋道化師の土製のお面だ。
彼は何気なく、そのお面を、長い間眺めていたが、そうしている内に、不思議なことに、明智の表情が変って来た。ぼんやりしていた目が、爛々と輝き出し、ゆるんでいた口元がキッと引締った。
「アハハハハ、おい、クラウン、ジョーカー、それとも君はピエロという名前かね。よくまあ、そうしてじっとしていられたもんだね。退屈じゃないかね。ハハハハハハハ、駄目だよ駄目だよ。ホラ瞬きをした。ホラ口元が歪んだ。よし給え、よし給え。君が本物の人間だってことは、とっくに分っているんだから」
と、驚くべきことが起った。壁にかけた土製のお面がカッと目を見開き、口を動かして、之に答えたのだ。
「やっと分った様だね。だが名探偵明智小五郎にしては、ちと遅過ぎたよ」
そこには元々土製の道化面が懸けてあったのだが、賊はそのお面と同じ化粧をして、時々壁の穴からお面を引込め、その跡へ自分の首を突出して、食事を運ぶ娘の見張りをしたり、一人ぽっちになった明智の行動を探ったりしていたのだ。