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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
ポッツリと云っても、邸そのものが亦仲々広大なもので、明治の中頃に建てられた煉瓦造りの西洋館、御殿造りの日本建て、数寄を凝らした庭園、自然の築山あり、池あり、四阿あり、まるで森林の様な大邸宅である。
この玉村本邸には、一つの名物がある。それは煉瓦造りの洋館の屋根に聳えて見える、古風な時計塔だ。玉村商店は日本の宝石商の例に漏れず、宝石を売買する一方古くから時計の製造販売をも営んでいて、その時計屋の目印として、東京の店の屋根にのせてあった時計塔が、大地震で振り落され、改築の際には、今時時計塔でもあるまいと、そっくりそのまま大森の本邸へ運んで、記念の為に西洋館の屋根へとりつけたものであった。これが、名物、玉村邸時計塔の来歴である。
附近の中学生達はこの時計塔を、玉村の「幽霊塔」と呼んでいた、涙香小史の「幽霊塔」という小説から思いついたもので、なる程そう云えば、丘陵の真中に、ポッツリ建っている邸といい、古風な煉瓦造りの建物と云い、なんとなく「幽霊塔」じみて見えるのだ。
時計塔は、文字盤の直径が二間もある、べらぼうに大きなもので、古風なぜんまい仕掛けだが、余程精巧に出来ていると見え、大地震に会っても、別に狂いも出来ず、現に今でも、人間の背丈程もある太い鋼鉄針が動いているし、時間時間には教会堂の鐘の様な時鐘が鳴り響く