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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「すると、今日は5という数字が現われる勘定だね。ハハハハハ、お前はそれを信じている様だね」

車は門前に着いて、グルッと方向転換をした。門の脇のコンクリート塀に、ヘッドライトが幻燈の様な円光を投げた。

「僕は殆どそれを信じています。殆ど……」

二郎はそこまで云ってハッと息を呑んだ。

「君、車を動かしちゃいけない。そのままじっとしているんだ」彼はまるで違った声になって、叫ぶ様に云った。「お父さん。ごらんなさい。あれを、あれを」

見よ、塀に写し出されたヘッドライトの円光の中に、まるで検微鏡で覗いた微虫の群かなんぞの様に、ボンヤリと、それ故に一層不気味に5という数字が現われているではないか。

幻燈文字はエンジンの響きにつれて、塀の上で微動している。ヘッドライトのガラスに墨で書かれたものだ。それが恐ろしく拡大されて塀に写ったのだ。

偶然であったか、故意であったか、丁度そこへ音吉爺さんが出迎えに出て来た。彼も円光の中の数字を見た。そして、「オヤッ」と一種異様の叫声を立てた。

「これは誰が書いたんだ。お前達か」

善太郎が激しい声で運転手を叱りつけた。

「ちっとも存じませんでした。