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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

若しこれをあと一日という通知状だとすれば、翌三十日は、愈その当日である。

第一は福田氏、第二は明智小五郎、次いで怪魔の兇刃に倒れるものは、抑も何人であるか、賊の予告が漠然と日附を示すのみで、その人を指名しない。不気味な曖昧さが恐怖を幾倍した。

その当日、玉村邸の人々は、誰も外出しないで、朝から一間に集って、恐怖をまぎらす為の遊戯や雑談をしていた。主人の善太郎も店を休んだ上、屈強の店員五六名を呼んで、いやが上にも厳重な防備を固めた。

ところが予期に反して何の変哲もなく日が暮れ、八時九時と夜が更けて行っても、邸内に別状はなかった。ナアンだ思った程でもない。この厳重な固めには、流石の魔法使いも策の施し様がないじゃないか。と、人々はやや安堵を感じ始めた。

十時には家内一同寝室に退いた。無論寝室の扉に締りをすることは忘れなかったし、玄関の書生部屋には寝ずの番が二人がんばっていた。その外には、表門裏門の刑事だ。

二郎青年もベッドに這入ったが、なかなか睡気を催さぬ。外の人々は安心しても、彼丈けは怪物の神変不思議な手並を、まざまざと見せつけられていたからだ。

遙か頭の上の、例の不気味な時計塔から、葬鐘の様な十一点鐘が聞えて来た。