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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

幽霊塔

怪物は音吉爺やであったのだ。

「変な笛の音がしたもんですから、念の為に見廻ったのですが、お嬢さまの部屋が何だか妙でございますよ」

「そうか。よしッ。ドアをぶち破れ」

二郎は気負って叫ぶ。

幸いドアは福田邸のものの様に頑丈ではなかった。二人の気を揃えた力で、何なく開いた。

二人ははずみを喰って、寝室へ転がり込んだ。と同時に、アッと迸る驚愕の叫び声。

幽霊塔

妙子は寝台から辷り落ち、あけに染って倒れていた。右腕のつけ根に、グサリ突刺って、まだブルブル震えている短刀。

家内中のものが妙子の寝室へ集って来た。見張番の刑事はこのことを警察署へ報告した。やがて、駈けつけて来た係官の取調べ。それをこまごま書いていては際限がない。

例によって犯人の通路は全く不明であった。窓もドアも凡て内部からしっかり締りが出来ていた。玄関の寝ずの番も、居眠りをしていた訳ではなく、表門裏門の刑事達も部署を離れていた訳ではない。殆ど奇蹟である。犯人は文字通り魔法使であったのだろうか。信じ難い奇怪事だ。

だが、まだしも仕合せであったのは、二郎の気附き方が早く、大声で怒鳴った為に、犯人は殺人の目的を果す暇なく、ただ、短刀の一突きで、そのまま逃出してしまったことだ。