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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

大魔術

大魔術

一日二日とたつに従って、花園洋子の誘拐は確実となった。東京の女流音楽家、郊外の実家、その他心当りは漏れなく問合わせて見たが、洋子はどこにもいないことが分った。

二郎は音吉爺やの身辺を抜かりなく監視していたけれど、これといって、変なそぶりも見えぬ。

時々三十分か一時間程外出することはあるが、それは皆行先の分っているお使いばかりだ。

新聞記者は警視庁と競争の形で、花園洋子行衛捜索に走り廻った。各新聞の社会面は、玉村家怪事件で埋められ、その外のあらゆる記事は、おしげもなく編輯者の屑籠に放り込まれてしまった。

事件全体が、どうも正気の沙汰ではない。殊に玉村二郎にとって、この一ヶ月の出来事は、凡て凡て、一夜の悪夢としか考えられなかった。だが、夜が明けて日が暮れて、又夜が明けて日が暮れて、いつまでたっても事態は変化せぬ。夢ではない。夢ではない。では俺は気が狂ったのではないかしら。そして、一生涯、この恐ろしい幻を見続けるのではないかしら。

事実、彼は少々気が変になっていたのかも知れない。誰にしたって、恋人が水の様に蒸発してしまったら、この世が全く別のものに見えて来るのは当り前だ。