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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
「いやな晩ですね」
潤一青年は、おびえた眼で息つく電燈を見つめながら、さも無気味らしくつぶやいた。
「大きな男のくせして、弱虫ねえ。ホホホホホ」
黒衣婦人の笑い声が、壁の鉄板にこだまして、異様に響き渡った。
すると、その時、まるで彼女の笑い声の余韻ででもあるように、ソーッとドアをあけてはいってきた白いものがあった。白の大黒頭巾、白の詰襟服、白のエプロン、大黒さまのように肥った顔が、異様に緊張している。この船のコックである。
「ああ、君か。どうしたんだ。びっくりさせるじゃないか」
潤一青年が叱ると、コックは低い声で、さも一大事のように報告した。
「またへんなことがおっぱじまりそうですぜ。化物のやつ炊事室にまで忍びこんできやあがる。鶏が丸のまま一羽見えなくなっちまったんです」
「鶏って?」
黒衣婦人が不審そうにたずねる。
「なあに、生きちゃいねえんです。毛をむしって、丸ゆでにしたやつが、七羽ばかり戸棚の中にぶら下げてあったのですが、昼食の料理をする時には、たしかに七つあったやつが、今見ると、一羽足りなくなっているんです。六羽しきゃねえんです」
「夕食には鶏は出なかったわね」