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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
だれかきたのかい」
それとも知らぬ明智は、椅子のそとの異様なけはいに、お人好しな不審をいだいている。
「ええ、今ロープを巻いているのよ」
やがて、縄はほとんど椅子全体にまきつけられてしまった。
「ロープだって?」
「ええそうよ。名探偵を簀巻きにしているところよ。ホホホホホ」
今や「黒トカゲ」は悪魔の本性を暴露した。彼女は一匹の黒い鬼の形相でスックと立ちはだかると、女性とは思われぬ烈しい口調で指図を与えた。
「さあ、みんな、その椅子をかつぐんだ。そして甲板へ……」
六人の男が、苦もなく簀巻きの長椅子をかつぎ上げると、ドタドタと廊下から階段へ急いだ。椅子の中では、可哀そうな探偵が、網にかかった魚のように、ピチピチと身もだえしているのが感じられた。
甲板の上は星一つない闇夜であった。空も水もただ一面の黒暗々。その中に、スクリューで泡立てられた夜光虫の燐光が、一条の帯となって、異様に白々と長い尾を引いていた。
六人の黒法師が、棺桶のような長椅子をかついだまま、船べりに立った。
「一チ、二ッ、三ン」
掛け声もろとも舷側をすべる黒い影。ドブンとあがる燐光の水けむり。ああ、名探偵明智小五郎はついに、あまりにもあっけなく、太平洋の藻屑と消え去ったのであった。