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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
どうも、することがすべて常軌を逸している。
「おい、香川さん、お前早苗さんを知らないかね」
香川というのは、檻に入れられていた美青年の名だ。
「おい、おい、香川さん、寝ているのかい。ちょっと起きてくれよ」
いくら呼んでも返事しないので、潤一青年は香川美青年の裸体の肩に手をかけて、グイグイと揺り動かした。だが、相手のからだは無抵抗にゆれるばかりで、少しも手ごたえがない。
「マダム、へんですぜ。こいつ死んじまったんじゃないかしらん」
黒衣婦人はただならぬ予感に慄然とした。一体何事が起こったというのだ。
「まさか自殺したんじゃあるまいね」
彼女は檻の中へはいって、香川青年のそばへ近づいて行った。
「顔を上げて見せてごらん」
「こうですかい」
潤ちゃんが、美青年の顎に手をかけて、うなだれていた顔をグイと上げた。
ああ、その顔!
さすがの女賊「黒トカゲ」も「アッ」と悲鳴を上げて、よろよろとあとずさりをしないではいられなかった。悪夢だ。夢にうなされているとしか考えられない。
そこにうずくまっていた男は、香川美青年ではなかったのだ。実に意外なことには、ここにもまた、解しがたき人間の入れかえが行なわれていた。