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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
だが、彼女の部下の無知な荒くれ男どもは、決して彼を崇拝しなかった。それどころか、首領にまんまと一ぱい喰わした不届き者として、かつは彼らの同僚松公を海底のもくずとした仇敵として、かぎりなき憎悪と憤激を感じた。
彼らはこの長話をジリジリしながら聞いていたが、問答が一段落したとみるや、もう我慢ができなかった。
「めんどうだっ、やっつけてしまえ」
一人の叫び声が導火線となって、総勢四人の大男が、孤立無援の名探偵めがけて飛びかかって行った。女賊の威望を以てしても、この勢いをはばむことはできなかった。
うしろから喉をしめるもの、両手をねじ上げるもの、足を取って引き倒そうとするもの、いかな明智小五郎とて、この死にもの狂いの大敵には、全く力をふるうすべがなかった。あぶない、あぶない。せっかくここまでこぎつけて、最後のどたん場で、形勢逆転するようなことになるのではあるまいか。一代の名探偵も、ついにこの荒くれ男どものために、命を失うような羽目になるのではあるまいか。
だが、実に奇妙なことには、この激情のさなかに、人もなげなる朗らかな哄笑が響き渡ったのである。しかもその哄笑の主は、四人の男に組み敷かれた明智小五郎その人ではなかったか。