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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
これはまあなんとしたことだ。
「ワハハハハハ、君たち眼がないのか。よく見るがいい、ホラこのガラスの中をとくと見るがいい」
ガラスというのは、例の剥製人形陳列場のショウ・ウインドウのようなガラス張りのことにちがいない。
人々は思わずその方に眼をやった。彼らはうかつにも、そのガラス張りの中に、どんなことが起こっているか、少しも気づかなかったのだ。激情のせいもある。それに、格闘の行なわれた場所からは、陳列所が斜め向こうになっていたために、眼が届かなかったせいもある。
見ると、そのガラス張りの中には、またしても驚くべき異変が起こっていた。人形どもが、今度は揃いも揃って、男の背広服を着せられていたではないか。剥製の男女が、元のままの姿勢で、しかつめらしい背広服を着て、すまし返っているのだ。
むろん明智の仕業にちがいないのだが、一度ならず二度までも、なんというつまらないいたずらをしたものであろう。だが、待てよ。明智ともあろうものが、そんな無意味ないたずらをするはずはない。この奇妙な衣裳の着せかえにも、また何か、途方もない意味があったのではあるまいか。
最も早くそれに気づいたのは、さすがに黒衣婦人であった。