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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

女賊と名探偵

「それから先は、秘中の秘よ。子分はそんなこと聞くもんじゃなくってよ。ただおかしらの命令に、だまって従ってればいいのよ」

かようにして、令嬢誘拐の手はずは、落ちもなく定められたのである。

女賊と名探偵

その晩、ホテルの広々とした談話室は、夕食後のひとときを煙草や雑談にすごす人たちでにぎわっていた。部屋の一隅にそなえつけたラジオが夜のニュースをつぶやいていた。クッションに深々ともたれて、顔の前に夕刊を大きくひろげている紳士が、あちらにもこちらにも見えた。円卓をかこんだ外国人の一団の中からは、アメリカ人らしい婦人の声がかん高く聞こえていた。

それらの客の中に、岩瀬庄兵衛氏とお嬢さんの早苗さんの姿を見わけることができた。黄色っぽい派手な縞お召の着物に、金糸の光る帯をしめ、オレンジ色の羽織をきた早苗さんの、年にしては大柄な姿は、和服の少ないこの広間では非常に眼立って見えた。服装ばかりではない。大阪風におっとりとした、抜けるほど色白な顔に、近眼らしく、ふちなし目がねをかけているのが、ひときわ人眼をひかないではおかなかった。

お父さんの岩瀬氏は、半白の坊主頭に、あから顔にひげのない、大商人らしい恰幅の人物だが、彼はまるで、お嬢さんの見張り番ででもあるように、彼女の一挙一動を見守りながら、そのあとをつけ廻していた。