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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

そのかわりには、用意周到にも、万々一のことがあってはと、かつて店の盗難事件を依頼してその手並みのほどを知っている、私立探偵の明智小五郎に、令嬢の保護をたのむことにした。探偵はあまり乗り気でもなかったけれど、岩瀬氏のたっての頼みをいなみかねて、彼らの滞在中、隣室に泊りこんで、この奇妙な盗難予防の任務につくことになった。

その明智小五郎は、細長いからだを黒の背広に包んで、同じ広間の別の一隅のソファに腰かけ、やっぱり黒ずくめの洋装の一人の美しい婦人と、何か低声に語り合っていた。

「奥さん、あなたはどうして、この事件に、そんな深い興味をお持ちなんですか」

探偵が、じっと相手の眼をのぞきこんでたずねた。

「わたくし、探偵小説の愛読者ですの。岩瀬さんのお嬢さんにそのことを伺ってからというものは、まるで小説みたいな出来事に、すっかり引きつけられてしまいました。それに有名な明智さんにも御懇意になれて、わたくし、なんですか、自分まで小説の中の人物にでもなったような気がしていますのよ」

黒衣の婦人が答えた。この黒衣婦人こそ、ほかならぬわれわれの主人公「黒トカゲ」であることを、読者はすでに察していられるにちがいない。