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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
樺太の原生林に、露人はその始めまったくいい生活をしていたにちがいない。
私たちの第一に訪ねた家はことに廂が深かった。イワン・チャハンスキーと標札が出ていた。無論農家であった。主家つづきに牛舎があり、中庭を隔てて、一層古びて頽れかけた茅舎の穀物納屋もあった。その間の庭の突き当りに細丸太の木柵があり、その外は野菜畑やクローバーの原っぱになっていた。
鶏が、その庭に、純日本種の鶏や矮鶏がココココと求食り求食りしてあちこちしていた。それを見て私は何とない微笑の頬にのぼるのを禁じ得なかった。
「鶏が遊んでいる、日本の鶏が。」
別に不思議でもないことながら、露人の住居だけに私には妙に珍らしく、また親しく感じられたのである。
私はその廂の下へはいって案内を乞うた。
戸口は開いてあった。
内は二室ぐらいしかなさそうであった。その取っつきの八畳ばかりの板の間の中央に、何か色の交った白地の頭巾をかぶったお婆さんが一人、古びた素木のテエブルに大きな木の盆を据えて、黄ばんだ麦粉をしきりに両手で捏ねかえしていた。そのお婆さんが眼で笑ってうなずいたので、私たちも這入って行った。