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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
」と私はセーニャを振り返った。
「うむ、ミルクがあるよ。」とセーニャは駆け出した。
*
セーニャの家は広い砂地の通りに面した丸太組の小舎であった。窓の下には背の低くて小さい向日葵と、赤がちの黄の金盞花が咲いていた。セーニャははいり口から飛び込むと、もう窓に顔を見せて、ぴっと下唇を尖らした。それから飛びつくように上半身を撓めて乗り出すと、片手を窓枠にしっかと、片手を思いきり下向に伸ばし伸ばし、うるさく垂れさがる亜麻色の髪毛をまた、幾度か振り立てて笑った。桃いろの首根っこだ。
「取っておくれよ。」
「そっちから取れない。」
「やだなア、うん、よし、――ほら。」と葉と蔓と花とをいっしょくたに引きもぎった。
はいり口の横には貼紙に「ミルクあります。」と拙い日本字で書いてあった。
内へはいって見ると、二間きりしかなかった。侘びしい家具の配置であった。取っつきの室には粗末な木地のテーブルに、ミルクの空罎だのつまったのだの、ゴチャ交ぜに並べた、その横に素の片肱をついて、同じ亜麻色の髪のセーニャによく似た若い娘が此方を微笑して見ていた。少し顔を紅くして、私を見るとまたセーニャの方を見た。