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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

豊次というその番頭がどこかで刷らせた用紙へ、でたらめな印判を捺したもので、気づかなかったのはこっちの手落ちだ。出るところへ出ても勘定は払って貰う、と播磨屋の主人は云っているそうであった。

「出るところへ出ようじゃないか」と彼は云った、「そんな人間を使っていたのは播磨屋の責任だ、ばかばかしい、どこへ出たってそんな理屈がとおるものか、――いったい金高はどのくらいになるんだ」

「たいしたことはないの」おかねは鼻の先へ垂れて来たほつれ毛をふうと吹いた、「たしか十二両とちょっとだったでしょ」

「十二両――」得石は息を吸った。

「出るところへ出るっていうけれど、本当にそうするつもりなら御自分でして下さいね、あたしは公事沙汰なんかいやですよ」

「私にやれって」彼はちょっと吃った、「だってこの店はおまえの名義でやってるんじゃないか、表むきの事で私が出るわけにはいかないよ」

「そんなことを知るもんですか」とおかねは鼻で笑った、「名義があたしだって、給銀もろくに貰えない女中同様で、おまけにからだまでおもちゃにされるんじゃないの、われながら自分のばかさかげんにあいそがつきるわ」