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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

おかねはくなっと躯を捻った、「ねえ、酒屋のほうが溜っていてうるさく催促をするの、済みませんけれど三両だけ都合をつけて下さいな」

得石はじっと女の顔をみつめた、「――私は帳合をして金を受取りに来たんだ、十一日の勘定にも三両二分残しておいたのに、三両貸せとはどういうわけだ」

「いま云ったじゃないの、酒屋がうるさく催促するからって」

「それはいつの勘定だ」

「先々月からのよ」

得石は咳をし、指の背で口髭を撫でた、「酔っぱらって頭がどうかしたな、酒屋というのは播磨屋だろう、勘定は毎月きちんと払って、受取がちゃんと取ってあるじゃないか」

「あら嘘よ、そのこと話したでしょ」

「そのこととはなんだ」

「播磨屋の番頭が悪いことをしていて、金を持って逃げたのよ」とおかねは云った、「半年もまえからで、うちで払った勘定も先々月から店へは入れてないんですって、あたし話さなかったかしら」

「聞くのはいま初めてだ、しかしそれならこっちの知ったことじゃあない、こっちは払うものを払ってちゃんと受取を」

おかねが手を振って遮った、「その受取がだめなの、播磨屋の受取とは紙も違うし印判も違うのよ」