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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

与力という役目からすれば、そうあっさり諦める筈はない。

――そうよ、そんな筈はないわ。

あの女中が「まあお珍らしい」と云ったとき、あたしは息が止まった。喉のところに拳くらいもある固まりのような物がこみあげてきて、息が止まり、眼の前がすうっと暗くなるような感じだった。青木さまがそっぽを向いて、あたしを眼の隅から見ていた。顔は脇へ向いているのに、青木さまの眼はあたしをするどくみつめている。それがちょうど針で刺されるように感じられたので、あたしは却って叫びだすのを抑えることができたのだ。

――あのときに勝負がきまったんだわ。

われながら女はこわいものだと思う。息が止まり、眼の前がすうっと暗くなるように感じ、怖ろしさのあまり叫びだそうとしたとき、青木さまが見ている、と気づいた。するとからだにあの反応が起こったのだ。乳房が重く張り、固くなった乳首が肌着でこすれ、両腿の奥が湯でもこぼしたように熱くなる。満ち溢れたものが静かに解放されるときの、こころよい充足感、――恐怖はやわらげられて、自信とおちついた気分がよみがえってきた。青木さまに捻じ伏せられたときも、自分が勝つことをあたしは疑わなかった。