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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
なぜなら、あたしは「罪を犯してはいない」からであった。
あの女中に「おりうさん」と呼ばれたときだけ、あたしは罪というものを感じた。それも、蝶太夫や得石を殺した、ということに罪を感じたわけではない。決してそうではない、それとはまったくべつの、なんと云ったらいいかしら、――わからない、なんと云いようもない。あなたはおりうさんではないか、とあの女中の云った言葉のなかに、罪を感じさせるものがあったような気がする。
そうよ、あたしは「決して」罪を犯しはしなかった。あれが人殺しであり、罪であるのなら、自分でそれを感じない筈はない。濡れた着物を着れば、冷たさときみ悪さを感じない者はないだろう。まして、人の命をちぢめるということは、濡れた着物を着るなどという譬えとは、比較もできないほど怖ろしく重大なことだ。
――それなのにあたしは、爪の先ほども罪を感じていない、女中に呼びかけられたあの、ごく短いいっときのほかは……。
――初めて蝶太夫を殺したとき、あたしのからだに二つの反応があった。一つは嘔吐したこと、もう一つはあれだ。裸にして寄り添って、教えられたとおり、左の乳の下をさぐり、そこへ釵の尖を当ててから、あたしは力をこめて、両手でそれを刺し込んだ。