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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

それは巻いて折った手紙で、表に「青木さま」と書いてあった。自分の姓だからちょっとおどろき、彼は跼んだ恰好のままそれを披いた。読んでみると正しく彼に宛てたもので、次のようなことが書いてあった。

――先夜おめにかかった倫でございます、その節はあなたさまをお騙し申し、こんどまたお手数をかけます、さぞ憎い女とおぼしめすことでしょうが、これには深い仔細がございますし、また、わたくしに運がありましたら、あと二度だけお手数をかけることになると思います、それが済みましたら、あなたさまのところへ自首しにまいり、仔細をお話し申すつもりでございますが、いま一と言だけ申上げます、それは……この世には御定法では罰することのできない罪がある、ということでございます。倫。

千之助は唇をひき緊めた。

――法で罰することのできない罪。

彼はその一句を、ながいこと、息をひそめて見まもった。

「あと二人、――」と彼は独り言のように呟いた、「それを止める法はないか、……いったいこの男たちはなにをしたのだ、椿の花片はどういう意味だ」

井田十兵衛がきせるをはたき、その音で千之助はわれに返った。