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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
一年のあいだに、世間の人の五年にも十年にも当るような経験をした。いやな経験だった。耳を洗い、眼を洗い、手を、躯じゅうを、ごしごし洗いたいような気持になる。それは自分の選んだ五人の男たちが、特に卑しくおぞましく、ゆるすことのできない人間だったからでもあろう、――佐吉から聞いた母の相手は、八人以上を数えたが、どうしても「ゆるせない」と思ったのはその五人であった。そして、実際にその一人ひとりに接してみ、かれら自身と、その身辺に起こっていた事情を、つぶさに見聞して来て考えることは、この世にはなんとけがらわしく、泥まみれな生活が多いことか、という厭悪のおもいであった。
「本当になんという人たち、なんという生活だろう」おしのは眉をひそめた、「――あんなふうに生きていて、少しも恥じたり、後悔したりするようなことはなかったのかしら」
当人たちはべつだ、かれら自身はもう死んでいるから。しかしかれらも生きているとしたら、同じような悪事や、卑劣な生活を続けたことだろう、とおしのは思った。
――岸沢蝶太夫。海野得石とその妻、彼が経営していた「海石」という料理茶屋のおかね。