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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

吉川英治『剣の四君子・日本名婦伝』。同一底本的分册已合并为一书。收入:剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 页

青空文庫

愍れを乞う者と誤られるのも無念である。涙もこぼすまい。頭も下げまい。

屹と、彼女は、胸を上げた。――そしてむしろ愍れむべき二個の人形よ! と頼朝夫妻を、その情熱の沸りを持つ黒い瞳で、じいっと、眼も外らさず見つめていた。

「舞え。――起て」

頼朝は、急いた。

「はい」

静は、きりっと答えた。水色の水干、真紅の袴。――起って、頼朝の夫妻を、高くから見て微笑んだ。

「わたくしの、好きな歌舞でよろしゅうございますか」

「何なりと」

夫妻は共に頷いた。

鼓の上手、工藤左衛門尉祐経は、はや一拍子入れて、此方へ眼を向けた。銅拍子は、畠山庄司重忠。――静のすがたを、祐経と挾み合って、床を取った。

遠く――遠く――静は眸をやって、なお、舞い出さなかった。恍惚と、鶴ヶ岡のここの高さから空を見ていた。行く雲を見ていた。

「さっ!」

鼓、銅拍子、気を合せて、舞のきッかけを促した。――と、空ゆく雲のそれのように、静の水干の袖が瑤々とうごいた。美しい線を描いて舞い初めたのである。

よしの山 峰のしらゆき

ふみわけて

入りにし人の

あとぞ恋しき あとぞ恋しき

眼にはいっぱいな紅涙があった。けれどまた、その眼には頼朝もない鎌倉幕府の権力もない。