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ちきゅうはっきょうじけん
地球発狂事件
海野 十三
「協力新聞」1945(昭和20)年9月1日~1946(昭和21)年(終号未詳)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,306 字 · 173 页
大入満員だった。相変わらず下級の船乗の顔が多い。
「これはこれはいらっしゃいまし、ドレゴさま。奥の方にいい席がございます」
ボーイ頭が心得顔に先に立って案内した。
そこは柱の蔭になっていたが、小綺麗に飾ったいい席だった。彼は強い酒を注文した。ボーイが去ると、すぐ女が来た。彼は今日は用がないからといって女達を無愛想に追払った。
酒は猛烈にうまかった。ボーイを呼んで、次の分を注文すると共に、彼へチップを、はずんだ。
彼の掌の上に、またもや彼の持ち物ではないナイフが載った。彼はそのことを改めて思い出した。
「どうしてこんなものがポケットに入っていたんだろう」
彼はそれを捨てようとして隅っこへ放りかけた。が、ふと気がついて、それをやめると、掌をひらいてそのナイフにじっと見入った。
彼の顔が紅潮して来た。彼は拳でぽんと卓子の上を叩くと、顔色をかえて立上った。
「……おお、これは水戸のナイフだ」
そのとき彼の腕をしっかりと抑えた者があった。ドレゴはその方へ振向いた。毛皮の長い外套を着、頭には同じく黒い毛皮の帽子をすっぽり被り、首のところを――いや顔の下半分をマフラーでぐるぐる巻き、茶色の眼鏡をかけた男が立っていた。