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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
それに、妖虫の姿は仮令縫いぐるみであっても、その中に隠れている人間こそは、蠍にもまして恐ろしい悪魔なのだ。
見つめていると、巨大な虫は、ソロソロと地上を這い始めていた。ニョッキリと聳えた二本の螯は、案の定庭の隅の物置小屋に向っている。彼は先ずそこの梯子を取り出す積りであろう。
守は少なからず躊躇を感じた、いっそ手捕りにすることは諦めて、こいつのあとを、気長に追跡してやろうかとも考えた。だが、敵は縫いぐるみに包まれた不自由な身体だ。力では引けを取らない自信がある。それに、万一の場合には大声にわめきさえすれば、邸内の書生などが助けに来てくれるであろう。この絶好の機会を、見す見す退がすのは如何にも残念だ。
「エエ、やっつけろ!」
彼は咄嗟に決心すると、スックと立上り、黒い風の様に駈け出して、物をも云わず怪物目がけて飛びかかった。
幸、相手は腹這いになっている。彼はその上に馬乗りになって、グイグイと圧えつけさえすればよかったのだ。
彼の計画は見事に成功した。巨大な蠍は、彼の下敷になって、奇妙なうめき声を発しながら、もがいた。もがきにもがいて、怪物はやっと身体の向きを仰向きに変え、例の螯を振って抵抗した。