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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
だが、守は怪物を圧えつけたまま、ふと妙な不安に襲われないではいられなかった。何となく変な具合であった。
こいつは一体何者だろう。なんて力のない奴だ。それに骨格と云い、身体の恰好と云い、まるで子供みたいにちっぽけな奴じゃないか。こいつは首領の青眼鏡ではないのだ。だが、賊の仲間にこんな子供がいたのかしら。
蠍の縫いぐるみの中で蠢いている奴は、疑いもなく子供であった。彼はみじめな泣声になって、さも苦しそうにうめいていた。
何といういやな声だ。オヤッ、この声はどっかで一度聞いたことがあるぞ。…………アア、そうだ。谷中の化物屋敷で、映画女優が惨殺された時、箱の中で歌を歌った奴の声だ。異様に嗄れた浪花節語りの様なあの声だ。
守はそこまで考えると、思わずゾッとして、圧えていた手を離してしまった。何ともえたいの知れぬ、水母の様に無力な怪物が、彼を怖がらせたのだ。
ふと、昨夜の三笠探偵の言葉が思い出された。谷中の殺人事件では、小さな木箱の中に潜んでいた奴、三河島の八幡の藪知らずでは、張りぼての岩に潜んでいて、老探偵を傷けた奴、そして、今は又、蠍の縫いぐるみの中に隠れて、品子さんを脅かそうとしている奴、こいつこそ、妖虫殺人事件の底に潜む不気味な秘密ではないか。