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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

魔術師だ! 赤蠍の怪賊が魔術師とは聞いていたが、これ程の大魔術師とは知らなかった。

桜井氏はもうガッカリしてしまって、トボトボと自宅に帰ったが、帰ると怪我人をその儘にしておく訳にもゆかないので、それぞれ指図を与えて殿村夫人と女中とを、階下の一室に床に就かせ、医者を呼びむかえたのであるが、女中の方は可なりの重態で昏睡を続けているし、殿村夫人も別段傷はうけていなかったけれど、恐怖のあまり熱病やみのようになって、囈言などを口走る有様で、なんのたよりにもならなかった。

軈て間もなく蓑浦氏が二人の刑事を伴って来着した。桜井氏は早速応接室に招じ入れて、挨拶もそこそこに、今朝からの出来事、品子さんの消失の不審の数々を、かいつまんで物語った。

無髯の浅黒い顔、豹のように精悍な体躯、テキパキと無駄のない会話、見るからに頼もしげな蓑浦係長は、委細を聞終ると、管々しい事は何も云わず、

「第一に電話を検べて見ましょう」

と、もう立上っていた。

検べて見ると電話は依然として不通である。

「何か細工がしてあるかも知れん。君達この電話線を外へたどって見てくれ給え」

彼は二人の刑事に命じた上、自分も素早く庭に出て、空中線をアチコチと見廻っていたが、忽ち裏庭の隅から、彼の歓声が聞えて来た。