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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

しかもまだ、時刻までには、幾刻か間もあるのに。

そして、船止めとなっているからには、元より海上へは出られず、遠く陸地とは絶縁されている船島の現地が、たとえ山や丘へ上がっても、見える筈もあり得ないのに。

しかし、人が行く。そして、人が行くと、家にいられない人々が、わけもなく、ぞろぞろと行くのだった。

太郎左衛門は、ちょっと往来へ出て、一巡そんな空気に触れながら、やがて、住居へ戻って来た。

彼の居間も、武蔵の寝ていた部屋も、もうすっかり、朝の掃除が終っていた。

開けひろげた浜座敷の天井の木目に、ゆらゆらと、波紋の渦がうごいていた。すぐ裏がもう海だった。

波から刎ね返る朝の陽が、ふわ、ふわ、と光の斑になって、壁にも障子にも遊んでいる。

「お帰りなさいませ」

「お。お鶴か」

「どちらへお出でになったのかと彼方此方、さがしていましたのに」

「お店の方にいたのだよ」

お鶴のついだ茶を取って、太郎左衛門は、静かに見入っていた。

「…………」

お鶴もだまって海を見ていた。

太郎左衛門が、眼に入れても痛くないほど可愛がっているこの一人娘は、先頃まで泉州堺港の出店にいたが、ちょうど武蔵が来る折、同じ船で、父の許へ帰っていた。