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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

その無造作に、巌流が、はっと詰足を止めた時、武蔵の姿を見失いかけた。

櫂の木剣が、ぶんと上がったのである。六尺ぢかい武蔵の体が、四尺ぐらいに縮まって見えた。足が地を離れると、その姿は、宙のものだった。

「――あッつ」

巌流は、頭上の長剣で、大きく宙を斬った。

その切っ先から、敵の武蔵が額を締めていた柿色の手拭が、二つに断れて、ぱらっと飛んだ。

巌流の眼に。

その柿色の鉢巻は、武蔵の首かと見えて飛んで行った。血とも見えて、颯ッと、自分の刀の先から刎ね飛んだのであった。

ニコ、と。

巌流の眼は、楽しんだかも知れなかった。しかし、その瞬間に、巌流の頭蓋は、櫂の木剣の下に、小砂利のように砕けていた。

磯の砂地と、草原の境へ、仆れた後の顔を見ると、自身が負けた顔はしていなかった。唇の端から、こんこんと血こそ噴いていたが、武蔵の首は海中へ斬って飛ばしたように、いかにも会心らしい死微笑を、キュッと、その唇ばたにむすんでいた。

九

「――ア。アッ」

「巌流どのが」

彼方の床几場のほうで、そうした声が、さっと流れた。

われを忘れて。

岩間角兵衛も起ち、その周りの者も、悽惨な顔をそろえて、伸び上がった。