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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

炭屋のおかみさんですか、どこで見かけましたか」

「いつもと違って、美麗におめかししているので、何処へといったら、品川の親類までといっていたが」

「え。品川へ」

「あっちに、身寄りがあるのかえ」

この界隈では、彼を亭主とおもい、彼も亭主顔しているので、

「へい。……じゃあ、品川へ行ったのかもしれません」

追いかけて――というほど強い執着ではない。なんとなく、ほろ苦いのだ。舌打ちをしたいような忌々しさがやたらに着きまとう。

「……勝手にしやがれ……」

唾をして、又八はつぶやいた。

そのくせ、ぶらんと放心した顔つきで、浜のほうへ歩いて行った。浜は、芝浦街道を横ぎると、ついそこだった。

漁師の家がまばらにある。朝、朱実が飯を炊いているまに、浜へ来て、網からこぼれる五、六尾を葭に通し、提げて帰ると、ちょうどお膳ができていたものである。

その魚が、砂の上に、今朝もこぼれていた。まだ生きているのもある。だが、又八は拾う気も出なかった。

「どうなすったえ、又さん」

背を打たれて、おや誰か、と振向いてみると、五十四、五の肥り肉な町人が、豊かな福相に、眼皺をたたえて笑っていた。