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「てらだとらひこのついそう」あとがき

寺田寅彦 わが師の追想

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『寺田寅彦 わが師の追想』。同一底本的分册已合并为一书。收入:「寺田寅彦の追想」後書、実験室の思い出、墨流しの物理的研究、墨並びに硯の物理学的研究。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,239 字 · 65 页

青空文庫

なるほど実験物理というものはこういうものかという気がした。

夏休み中、三十度以上の蒸し暑い狭い実験室で、毎日汗だくになって燃焼量と管の形との間の関係をグラフに作って暮らした。室井君が横で無闇と瓦斯の炎をぶうぶうやるので閉口した。水道の水を冷却用に使っていたのであるが、水温が余り高くなってしまって用をなさなくなったこともあった。そういう日は勿論実験はお休みで、午後半日紅茶を呑みながら無駄話をして遊び暮らした。

先生は夏になると割合元気になると言いながら、どんな暑い日でも毎日一度は実験室へ顔を出された。胃が悪いと手脚が冷えて困るので、夏になると割合元気になるということをこの頃になって私も経験した。

先生は一わたり三つの実験を眺め渡して、一言二言ちょっと示唆的な注意を与えられる。それで指導の方はもうお仕舞いである。あとはヴァイオリンや三味線の話が出たり、幽霊や海坊主の話になったりした。先生はずっと前に尺八の音響学的研究をされて外国人を驚かされたことがあったが、引き続いて三味線の方を調べたいという希望をずっと持っておられたのである。しかし三味線ときくと皆が尻込みをするので、適当な実験助手が得られなくてそのままになっていた。