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「てらだとらひこのついそう」あとがき

寺田寅彦 わが師の追想

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『寺田寅彦 わが師の追想』。同一底本的分册已合并为一书。收入:「寺田寅彦の追想」後書、実験室の思い出、墨流しの物理的研究、墨並びに硯の物理学的研究。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,239 字 · 65 页

青空文庫

墨膜に出来る細胞渦

「第六図」のキャプション付きの図

第六図

墨膜に出来る細胞渦

流した墨汁の量が多い時には、墨膜はかなりの厚さになる。その時には暫く放置すると、第七図甲のように、中心から細い放射状の線が出来ることが多い。これは薄い液層内に対流によって出来る細胞渦の為である。細胞渦というのは、一様な液層が非常に細かい沢山の渦に分かれる現象を云うのであって、渦は横から拡大して見ると、第七図乙のような構造になっている場合が多い。この渦は液層がやや厚くて、上面が冷え下面が暖かい時に起こり易い。普通液膜を空中に放置すると、表面は蒸発の為に熱を奪われて冷えるので大概の場合薄い液層が乾く時にはこの現象が起きる。紙や布に墨汁を十分たっぷり載せて描いた場合、乾いた時に妙な縞模様が出来るのも、この細胞渦によるのである。

「第七図」のキャプション付きの図

第七図

水中に電解質が少量あると、墨膜は細胞渦によって放射状の縞になると同時に、膜が固化して行くので、縞は第七図のように規則正しくならず、色々複雑な形をとるようになる。実際墨を用いて画を描く時には、これらの色々な現象が集積して、種々の面白い効果を出すことがあるであろう。