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「てらだとらひこのついそう」あとがき

寺田寅彦 わが師の追想

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『寺田寅彦 わが師の追想』。同一底本的分册已合并为一书。收入:「寺田寅彦の追想」後書、実験室の思い出、墨流しの物理的研究、墨並びに硯の物理学的研究。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,239 字 · 65 页

青空文庫

ここで注意すべきことは、紫雲石の硯ではμsが0.37くらいに落ち付くのに、真鍮ではどんどん減少してしまうことである。即ち真鍮の場合には、表面がすぐ磨いた状態になってしまうが、紫雲石の場合は、なかなかそのような状態にはならない。従って墨のおり方もいつまでも速いのである。端渓などの場合には、表面に所謂鋒鋩と呼ばれる堅い微小石粉が露出していて、それが墨のおり具合を容易にしていると云われているのであるが、鋒鋩の研究なども、このように物理的に行ったならば、もっと確かなことが分かるであろう。

同時に硝子と硯との摩擦係数を測った結果も、第六図に描きこんである。この場合は、紫雲石では初めμgが増して行き、ある値以上のnになると一定の値となる。真鍮ではそのような傾向は認められず、徐々に減少するばかりである。摩擦係数がこのように妙な変化をすることは、ちょっと類例の少ない現象で、寺田先生は色々の考察の結果、次のような説明を下された。石の硯と墨との場合、表面が粗いと、突出部が墨の膠に機械的の力を及ぼして、その附著力が一見μsを大ならしめている、それが磨墨につれて突出部が少なくなりμsの固有の値になる。