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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

裏からまわって入口の戸をあけますから」

女は左近を待たせて闇の中に姿を消したが、やがて玄関に灯りがついて、女が入口の戸をあけた。彼を応接間へ通してイスをすすめて、

「ちょッと食べる物つくってきますから、待ってらッしゃいね」

「ボクは食事すみました」

「でも何かつきあってね。私、おなかペコペコなのよ。食べてからでなければお話もできないわ」

女は立ち去った。その応接間には仏像があった。ほぼ等身大の仏像だ。その仏像を見ているうちに、左近はふと気がついた。例のバクダン・メモの中に仏像の話がでてくるのである。むろんこの仏像ではない。なぜなら、それは一尺八寸の仏像だからだ。その持主は仏像の中に秘密書類を隠しているのである。彼の妾の芸者だけがそれを知っている。しかるに意外にも住田嘉久馬がそれを知っているのである。ここがこのメモの圧巻の箇所で、住田がこの人物の秘密書類の隠し場所を知っているということは、要するに秘密の全部、秘密書類の全ての内容をほぼ知りつくしているということを言外に匂わしているからだ。発表されたメモを読んで慌てて隠し場所を変えてみてももう手おくれだと嘲笑している。