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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

桑原々々」

洋次郎は特に妹のために心痛しているらしいが、そのへんは上海人もなんとなく殊勝である。左近も自分の片意地によって人々に迷惑を及ぼしてはならないということを何より深く自戒する気持が生じた。

「今度のことは全くボクから生じたことだから、皆さんに迷惑が及ばないようにどんなことでもしたいと思っていますが、その方法にはどんなことがよろしいかね」

「そのことは相手の出方を見る以外に仕方がない問題だね」

「しかし葉子さんが再び誘拐されでもすると万事手おくれになりゃしませんか」

その問題はさすがの洋次郎もたまらないのである。軽率に返事もできなくて、沈痛な面持で考えこんでしまった。

しかし葉子が先刻から一言も発せずに考えこんでいるのは、自分の命の問題なぞではない。謎の女の顔なのである。たしかに何かで見かけたことのある顔なのだ。敵でも味方でもかまわないが、とにかく女が何者であるか、思いださずには居たたまれない焦燥を感じる。有り合せの雑誌を探しだして、女優、歌手、ダンサー、ミス何々、当てもなく女の写真を追ってみるが、どれでもない。しかし、どこかで見た顔だ。

彼女はボンヤリ一冊の綴じこみをとりあげた。