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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

他日三十六階の大出版ビルを建設するこの大竜、問答無益だ。それ、我々の手で校了にして、紙型をとって、刷りあげちまえ。男と男の約束だ。大竜よくやったと住田嘉久馬がいずれオレの手を押しいただいて礼を云うぜ。わかっとる」

大竜は印刷屋や製本屋でホラをふくのが何よりうれしい時間であるから、吹いて吹いて吹きまくりながら、その日はめでたく校了にして二人はいったん店へ戻ってきた。

ところが店内で二人を待っていたのはタコスケと洋次郎だ。両者なんとも沈痛な面持で二人を迎え、タコスケは泣かんばかりに、

「氏家印刷へ電話したら一足ちがいに出たあとでねえ。ボク、こまったよ。ちょッとパチンコへ行ってる留守に、葉子さんが消えちゃったんだ。葉子さんを連れ去ったのは緑の自動車だと近所の人の話なんです。とてもすごい洋装の美人と一しょに緑の自動車でどこかへ立ち去ったというんですよ。それはむろん玉子ですよ。今日はまたパチンコがよくでやがるんだ。葉子さんをよろこばしてやろうと思ってやりすぎちゃってね。すまん。これで、カンベンしてくれよ」

タコスケは両のポケットやズボンのかくしからキャラメルだのシャボンだのをゾロゾロとりだした。