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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

しかしてだな。玉子は行方不明であるから、その妾宅や旦那の私宅や別荘等の当然居るべき場所にいないのだ。したがって玉子の隠れている白雲荘は表面的には彼女とツナガリのない人物の邸宅だ。玉子はここに隠れておる。したがって、葉子もここにいるぞ」

大竜は昏倒中の思索を示して威信の恢復につとめたが、玉子のいそうな場所といえば白雲荘と相場がきまっているのだから、誰もおどろく者がない。

「柳の下のドジョウだね」

とタコスケまで軽蔑した。洋次郎はシャレや冗談にとりあっていられない。左近の片腕をいきなり握りしめて、

「キミは東京を立ち去ってくれ。葉子の行方を探したってムダなんだ。奴らの仕業は腕ききの名探偵や刑事でも嗅ぎつけるには骨の折れるものなのだ。キミが東京を立ち去れば自然に葉子は戻ってくる。キミがいま去れば今夜のうちに戻るだろう。キミがいるうちは葉子も戻らないし、ボクも脅迫されるばかりなのだ。な。たのむ」

「ああ、いいとも。キミは立派な兄さんだ。キミの云う通りにしよう。しかしだね」

左近は洋次郎の肩を叩いた。

「まず葉子さんを返すようにはからってくれたまえ。そして葉子さんの帰宅を見とどければ、ボクはその場から東京駅へ行こう」