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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

天罰をうけてザンゲしたくなっちゃったけど、夏川さんにお詫びしてちょうだいね。夏川さんが爆破するはずの金庫はこの家の中にあるのよ。そしてね。爆破しての帰り道、たぶん夏川さんはこの庭で十何頭の猛犬に噛み殺されたはずなのよ」

葉子はゾッとして、しばしは物が云えなかった。玉子もそれ以上は語りたくないらしく、目をとじている。その顔は例のやさしい顔ではない。悲しみの漂う顔。そして疲れ果てた美しい顔だ。玉子の本当の顔だと葉子は思った。この顔を隠していつも無理にやさしく作り笑いをしていた気の毒な女。いま玉子の語っている言葉は本当の言葉なのだ。

「白雲荘ッて、誰の家?」

葉子は思いきって訊いた。

「あなたの知らない人の別荘よ。でも、本当の持主は、ここの主人と同じ人よ」

「住田さん?」

玉子はもはや答えなかった。

まもなく女中が現れたので、葉子はまた部屋の片隅へ退いた。

白雲荘の持主も住田? それはどういうことだろう。いろいろ考えてみたが、ワケが分らなくなるばかりであった。

まもなくオバサンが現れて葉子に云った。

「お嬢さま。お帰りの車が待っております」

「ハイ」

「そして、夏川さんと申す方に必ず東京を立ち去るようにとすすめてあげて下さいね」