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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

そのこと自体はむしろ滑稽なぐらいである。一介の漁師が一億五千万のイケニエに見立られればむしろ豪勢な話だ。シケで死んでも千円の見舞金もおぼつかない身分である。

しかし左近は、はじめて心中に煮えたぎる怒りを感じた。汚職事件も腐敗ダラクの政党も我関せざる気持であったが、ただ単に事件にまきこまれたというだけでなく、汚職のカラクリ自体の中にまきこまれたとなると、汚職のカラクリというものに甚だ現実的な感情で認識を新にせざるをえない。甚だしく肉感的に観察せざるをえないのである。

まことに汚らわしく憎むべきカラクリだ。人の二号をローラクして秘密書類を握り、メモの公表によって脅やかして、それを一億五千万で売りつける。しかもその大金の動きをごまかすために人の命をギセイにする。まことにいやらしい限りだ。一億五千万を投じても盗まれた秘密を買い戻さねばならぬという汚職の一味も鼻持ちならない。指揮権を発動して捜査の中止を命じる政府。一ツに肉感的な憎悪を覚えると、それにからまる全ての汚れに大いなる怒りを覚えずにいられなかった。海の男の心ではなかった。それは人間の怒りであった。