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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

と左近は冗談にまぎらして礼をのべて辞去したが、さて実際問題となると冗談ではすまされない。

呼鈴をおして人がでてきて、うまくごまかして門を通ることができればよいが、失敗すると、それまでだ。なぜならいったん怪しまれると、猛犬の関所を通ることができないからである。訓練された犬というものは命令一下とびかかる。犬と命令する人とが一しょになっては猛犬の関所は通れない。呼鈴を押して、でてきた人をごまかすことができなければ、もはや侵入は不可能だ。

犬だけならば、まだしも通過の可能性はあるものだ。主人の命令を受けない犬は必ずしもとびかかるとは限らない。こッちの態度によって噛みつかせない可能性もありうるのである。むしろ呼鈴をおさずに静かに門をくぐるべきだと判断した。

もちろん左近は身に寸鉄もおびていなかった。十数頭の猛犬を小さな刃物で防ぐことができるはずもない。大きな猛犬はむしろ小さなテリヤよりも扱いよいものである。こちらの心構えによって奴らの不安を押えつけることができうるものだ。

めざす家に到着した。彼は邸の外を一周したり偵察したりして犬どもに警戒の念を起させてはこまるから、なんのためらいもなく裏戸をあけて、なれた足どりで門内へはいった。