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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

ジャンパー姿の怪しさも当然のものとうけいれた様子。犬の関所を通過したのが何よりの説得力となっているのだ。

女中の差しだすスリッパを悠々とはいて、長い廊下をみちびかれ、病室の前にたどりついた。

「もう分りました。あなたは退って下さい」

「そうですか」

と女中は戻って行った。

左近は洋室のドアをあけた。ベッドに玉子がねている。婆やが一人つきそっていた。

「今日は。玉子さん。夏川左近です」

「アッ!」

玉子は目をあいて、左近を見ると小さな叫び声をあげた。病み疲れて蒼ざめた顔。玉子は観念したように目をとじて、再びその目を開こうとしない。

婆やが立ち上ろうとした。左近はそれを制して、

「すわっていなさい。別にあなた方には何もしません。ボクの邪魔だてさえしなければね。玉子さん。ボクが爆破するはずだった金庫はこの家の金庫だそうですね」

玉子は覚悟をきめたらしく、ハッキリと目をあけて左近を見つめた。病み疲れてはいるが、意外に澄んだ目である。玉子は左近をためすように見つめて、

「そうです」

と答えた。そして視線を左近の顔から放さなかった。

「それをきいて安心しました。ここの金庫でない時にはひッこみがつきませんからね。