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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

重吉は又、夜になると、便所へ立たず、平気で窓からジャア/\やった。それを咎める者があっても、なアに、オレが毎日掃除する庭だから、明日は又、オレがキレイに掃除するから心配しなさんな。アンタも、窓から、やりなさい。オレがキレイに掃除してやるから、と、平然として答えるだけであった。相手が公一のようなヒステリックな怒り方、叱り方であれば、彼はそう答えてから、クルリとふりむいて、ブッと屁をたれるだけのことであった。

重吉の野放図な性格は、変な風に形をかえて、倅の久七に遺伝していた。石頭と持ち前の怪力はオヤジそっくりであったが、無口で、殆ど笑わなかった。たゞ彼の負け嫌いと執念深さは、尋常一様のものではなかった。あるとき、久七が井戸のツルベの綱を切らして、落してしまったことがあった。その井戸は庭の撒水用のものであったが、久七は面倒くさくなって、水道の水を代用した。それを見ていた公一が、例のカンシャクを起して、

「キサマ、ツルベを落して、そのまゝにほったらかして、後で水が汲めんじゃないか」

と、怒鳴りつけた。

「なに、汲めますさ」

久七は平然たるものだった。公一がいきり立ったのは無理がない。