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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

まったく、御説の通りだ。大矢主任は、まだ言葉をつづけた。

「筆蹟が安彦氏以外の別人のものだとすると、安彦氏はニセモノでしょうな。自分の実家を人に書いてもらう必要はないでしょう。無学ならとにかく、文科出の文学に志のあった安彦氏が、左手一つにせよ、筆談に苦心するとは思われませんよ。しかしですな。安彦氏が実際にはホンモノであるが、これをニセモノらしく仕立てるために、わざと左手で書いた紙キレを持たせたとしたら、どうでしょう。これも一つの場合ですよ」

私は、もう、呆れて大矢主任の顔を見つめるばかりであった。いろいろな場合がありうるものだ。そして、すべてが真実でありうる。なるほど、捜査というものは、私のように単純に、一方的ではいけないものだと痛感した。

巨勢博士は私を笑った。

「先生。ひどく驚いていますね。しかし、フェミニストの先生にして、犯人は女也と断じた勇気は見上げたものですよ。そこで、もう一つ、断じていただきたいことがあるのです。昭和十七年の事件に、果して女が犯人であり得なかったか」

私は無性に癪にさわって、

「女が犯人で有りうるかって? 君は有りうるのかい。