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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

八雲医師は困惑しきって、たちすくんだ。定夫の目に顔を近づけ、目の前でテノヒラを上下させるようなことをしたり、顔の筋肉を見つめたり、口の中をのぞいたり、匂いをかいだりしていたが、小首をひねるばかりで、一言も発しない。見当のつかない症状らしい。

すると、上から見下していた蛸重が、落付いて言った。

「フグの中毒らしいよ」

「アッ」

八雲医師は飛び上るほど驚いて、重吉を見つめ、目をまるくした。

それを重吉は平然と見かえして、

「今夜、私たちは、フグを食ったからね。しかし、定夫さんのほかは、みんなピンピンしているがね」

そこには、家族一同、揃っていた。

八雲医師は一瞬の驚愕がすぎると、猛然と警察医の自覚に立ちかえっていた。

彼の叫びは鋭かった。

「すぐ病院へ電話。フグ中毒を運んで行くから用意たのむと。寸刻を争う。すぐ自動車へ担ぎこんでくれ。ああカバンがあれば、自動車の中でカンフルを打ちつゞけるところだが」

三名が定夫をだきあげ、八雲医師がつきそって、自動車へ担ぎこんだ。救急車のサイレンを唸らせ、猛烈な速力で走り去る音が、いつまでも、きこえた。

「フグ中毒!」

大矢主任の呟きは、沈痛であった。