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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

大矢捜査主任は大きな驚愕を隠さなかった。

「犯人を知っているって? 安彦氏が。ほんとですか。犯人は誰です?」

「それが、まだ、分らないのですよ」

巨勢博士はニヤニヤした。

「犯人を知っているだろうと思われるワケがあるのです。安彦氏は応召の前夜、昭和十七年の日記帳をていねいに紙に包んで封じたものを、妹の美津子さんに、ひそかに渡したのです。自分が戦死したら、中をあけて見るようにと申し残しましてね。ところで、包み紙の表紙に、マルコ伝第八章二十四と大きな字でハッキリ書いてあったというのです。マルコ伝第八章二十四と申しますのが、つまり、人を見る、それは樹の如きものの歩くが見ゆ、という文句なんですがね。そこで、犯人を見た、という謎じゃないかというわけなんですが、この日記帳が、昭和十九年末の疎開に当って、美津子さんが机のヒキダシをあけてみたら、紛失していることが分ったというのです」

大矢捜査主任は異常な熱心さで、きゝいっていた。然し、一言も、発しなかった。巨勢博士が、にわかに笑いだした。

「大矢さん。そろそろ、種を明かして下さいませんか。僕に……お喋りさせるなんて、罪ですぜ。