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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
「私は実に意外だったのですが、こちらへ来る途中ですね、宿屋へ泊るたびにどの宿屋の飯もひどく不味いんです、ことに飯の菜がなってない、まるで食えないんです、といったところで武士であってみれば、まさかおかずの文句は云えやしません、そこまでは私も品格を下げたくはないですから、つまり」
「つまりそれで箱の中の物を喰べたというわけか」
「いやそう仰しゃっては、それでは身も蓋もなくなります、そんな単純な気持では決してありません、私としてはこちらへ持って来て喜んで頂くつもりで、代金も自分で払いましたし重い思いをして持って来たものなので、そんな貴方の仰しゃるような」
「うるさい、黙れ、もういい」右衛門は唇を白くしていた、「――土産は貰ったことにする、礼も云う、過分であった……このとおり頭を下げた、これでいいだろう」
「いやそんな、礼を云って頂くほどの物ではございません、ほんのもう寸志ですから、どうぞもう」
「うるさい、わかったからあっちへゆけ、頭がきんきんしてきた」
側からみね女がめまぜをするので、泰三は心残りだったが、「ではせめてこれだけでも此処へ置きますから」と云って、からっぽの箱を右衛門のほうへ押しやり、おじぎをして去ろうとした。