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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

と云いまして、それでつまり、……肩の付根のところを抜いてしまったんです」

「もういい、また頭がきんきんし始めた」

右衛門は溜息をついて云った。

「水を一杯持って来て呉れ」

その夜のことである。およそ夜半じぶんであったろう、突然どこかで烈しい物音が起こり、人の悲鳴が聞えたので、右衛門はがばとはね起き、脇差を取り、行燈の掩いをはねて、「なにごとだ、なんだ」と叫んだ。そのときもすぐ「金吾」という名が頭にうかんだのであるが……襖をあけて隣りの部屋から妻が顔を出した。

「あの物音はなんだ」

「わたくしにもわかりませんけれど、泰三さんのお部屋のようでございますよ」

「なに泰三……」

右衛門は廊下へ出て、脇差を右手に持ち替えてそっちへいってみた。……泰三の部屋は玄関に近く、家扶の相模忠之進と隣り合っている、近づいてゆくと、そこでは誰かわからないがいま盛大に組討ちをやっていた。

「――誰だ、なに者だ」

右衛門はこう叫んだ。

「――曲者です」

泰三の声である。続けて忠之進の苦しそうな声も聞えた。

「――曲者です、この、あっ」

「――どうだ、うぬ」

どたんばたん、ばりばりと襖や障子が毀され、組んずほぐれつ格闘している。