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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
妻のみね女もそれに異存はないらしかった。またかれらには二人の娘がいて、姉の千賀は十八歳、妹の津留は十七歳になるが、この娘たちも幾らか保留的に同感の意を表した。
「本当に温厚なおちついた方ですわ」
姉の千賀は含羞みながらこう云った。
「どんな大事な物でも安心して預けられる方らしいわ」
妹の津留は含羞まずにそう云い、それからちょっと視点を斜にしてから付け加えた、「そしてとッてもうまく静ウかにくしゃみをなさるわ」
平穏な日々が続いた。
泰助は寄合格で奉行総務という職に就き、山治家と城とを毎日ごく精勤に往復した。藩の人事異動に警戒を怠らない一連の人々は、泰助と接するにつれて自分たちの安全を確認し、ほどなく彼を無視するようになった。……この「一連の人々」というのは、領内の農工商業を管掌する関係役所の者、つまり勘定、納戸、作事、収納、普請など、各奉行所の主事支配といった人たちで、要するにその担当する事務上かなり多額な特別収入があり、その利得を守るために連合協力しているわけである。こんな事はいつの世どこと限らず、およそ「役所」があり「役人」がいる以上は必ず付いてまわるし、そこはどうもやむを得ないものらしいが、……そういう実情からして、江戸邸から誰か転任して来る者があると、かれらはまず検査官ではないかと疑い、相当以上やきもき