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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
「えええそれはです」
泰助がそう云いかけたとき玄関のほうにどたんばたんがたぴしという物音が起こり、その物音がつぎつぎに物音を呼び起こしつつこちらへ近づいて来た。玄関の障子が倒れ、ついで杉戸が外れ、襖が破れ廊下の障子が破れといったぐあいであって、とりもなおさず、泰三が進行して来る状態を証明するものであった。
「やあ、どうも、どうも失礼」
泰三が襖を一尺ばかりあけて、そこから顔を出して、にこにこと眼尻を下げて笑って、ひょいとおじぎをして、「ちょっと人に招待されたものですから、食事はもう頂きませんからどうぞ片づけて下さい、それをお断わりしようと思いまして」
「待て泰三、け、決闘はどうした」
「残念なことに仲裁がはいっちゃったんです、その仲裁人に招かれたんで、口惜しいけれどもあのおけら共と仲直りをするわけなんです、今日は二つも喧嘩の口があったのに、二つとも中途半端になっちゃって、いやなんでもありません、私は喧嘩なんか、決して私は、ではいって来ますから、どうぞひとつ皆さんはお先へ」
そして勢いよく襖を閉め、その反動で一方の襖を二尺も辷らせ、それから再び例の狼藉たる物音を立てながらその物音といっしょにとびだしていった。